「じゃらっ、じゃらっ、じゃらっ、じゃらっ」
6月に入ってから、毎日そんな音が土間に響いている。瓶の中で、氷砂糖と梅の実が揺れあう音だ。
この音が聞こえると、梅雨だなと思う。
季節がめぐり、梅しごとの季節がやってきた。暑くなる前の雨季に、スッキリとした甘さと佳い香りでホッと寛がせてくれる。
今年の梅は豊作らしい。
先日訪れた「山のくじら舎」さん、法要にご一緒させていただいた吸江寺さんからも、たくさんの梅を頂戴した。ありがたいことに、どの実も丸々とふくよかで、みずみずしい香りを放っている。
うちではお酒はあまりいただかないし、梅干しもたくさんの方からいただく。だから、毎年漬けるのは、梅シロップと梅ジャム。
数年前までは、私の担当だった「梅しごと」だが、夫が特に相談するでもなく「漬けるか」と言って手際よく支度した。昼も夜も、パソコンにかじりついている私を慮ってのことだろう。
夫は、梅を洗い、丁寧にヘタをとり、アクを抜く。瓶を消毒し、氷砂糖と交互に重ねて漬け込んでいった。そして、1日1回、瓶を揺らして混ぜる。「育てている」という言葉がぴったりな、3人暮らしには少し多い量。だけど、「美味しくてきっとあっという間に飲んでしまうだろうね」と笑いあった。
そして昨日、その第一弾が完成した。
……と言っても、じつは少し発酵してしまっていて、急遽火を入れて仕上げることに。夫は慌てることなく、落ち着いた手つきで、風味を損なわないよう良い加減に火を通してくれた。
できあがった梅シロップを、炭酸水で割ってふたりで味見。口にふくんだ瞬間、やさしく広がる梅の香りと、爽やかな甘さに「!」と思わず顔を見合わせた。
――ああ、これこれ。今年もこの味。
土間の隅に並ぶガラス瓶。氷砂糖が少しずつ溶けて、梅のエキスと混じり合い、だんだんと透き通ったとろみのあるシロップに変わっていく。
その様子を毎日眺めながら、目には見えない時間の流れを感じている。
雨の日がつづいても、じっと停止しているわけではない。見えないところで、静かに何かが育まれている。物事が動かない、何も起こっていないようでいて、期が熟すまでの必要十分な内的充実の時間というものある。
この季節は、そんなことを教えてくれる。
今日もまた、私の横で「じゃらっ、じゃらっ」と音がする。
この梅雨の音も、大きな瓶をマラカスのようなリズムでふる夫の姿も、いつかきっと、懐かしい季節の記憶になるのだろう。


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