現代造佛所私記No.84「インターン(11)」

炭火を起こす準備から一日がはじまった。

今日は高知県の東や北から来客の予定なのに、嵐の予報だった。次第に強くなっていく風雨に気を揉みながら、支度を進める。

この日は、エストニア、カナダ、ドイツ、日本という国籍も世代も異なる人々が集い、工房でひとときの文化交流の場が開かれた。

仏像の話からスタートする時間。吉田仏師が、如来から菩薩、明王、天部へと至る仏像のヒエラルキーや、仁王像と不動明王の役割の違いについて解説すると、参加者たちはそれぞれ英語や日本語で言葉を補いながら理解を深めていた。

とてもチャーミングな元英語教師の尼僧さんも来てくださった。「私は仏像の細部をあまり見ないんですよ」と微笑む。「その存在そのもので円満だと思っているから。でも、仏師さんの話を聞いて、なるほどと思いました」と、目を細めて穏やかに語っていらした。

文化人類学者のRyanさんはサンスクリット語も学んでいたという。お経の音と意味についても話が弾んだ。

場所を移して我が家の居間へ。あたたかなお茶時間には、私が抹茶を、Mariekeが実家から持参したダージリンティを淹れて振る舞った。香りと苦味が程よい八女の抹茶にはきんつばが、良い香りのホワイトティーに、地元の「龍馬クッキー」がよく合った。

文学の話、翻訳の話、各国の慣用句の違いや共通点、自国の言葉が他国では違う意味になってしまう笑い話まで、さまざまな会話が行き交ってあっという間に時が過ぎた。「目から鱗って、ドイツでも言うよ!」とMarieke。表現が世界をまたぐ瞬間に、笑いや驚きが尽きなかった。

せっかくなので、音楽も楽しむ時間を設けた。龍笛と楽箏で夫婦で「越天楽」を奏でた。雨の音とを背景に、あまり上手ではないけど皆が静かに聴いてくれた。「綺麗な音!」と喜ばれたのが嬉しかった。

そのまま楽器体験へ。楽箏、龍笛と順番に。プラスチック製の龍笛を手に取って「なかなか音が出ないね〜」と苦戦しつつも、何人かは綺麗な音色を奏でることができた。楽箏は弾くだけで音が出るため、こちらも楽しく体験が進む。譜面を見てもらい、稽古は歌から始まること、師匠から口伝で受け継がれることなどをお話しした。

リラックスしたMariekeの表情。いつも笑顔の彼女だが、今日はさらに素の顔が見えた気がする。

日が暮れ始めて、互いに名残を惜しむ。嵐の気配が近づくなか、ハグや握手で出会いを喜び、それぞれの日常へ帰っていった。

私たちとMariekeは遅めの夕飯を終え、デザートを摘んでいた。火鉢の上の鉄瓶から白湯を注ぐと、Mariekeが、目を少し丸くして言った。「これ、まだあったかいの?」

宴の前におこした火が、微かに白くなった炭を照らし、かざす手のひらを温める。このいつまでも消えぬぬくもりのように、今日という時間もまた、誰かの心に灯り続けることを願った。