現代造佛所私記No.83「インターン(10)」

パラパラ小雨が止み、空気がすっと透き通った。今日は、ドイツからのインターン生Mariekeを連れて、「山のくじら舎」(高知県安芸市)へ。

迎えてくださったのは、萩野社長とスタッフの湊さん。事務所から製材所、作業場のすみずみまで丁寧に案内していただき、道中、土佐備長炭「一」さんの製造現場にも立ち寄った。ちょうど窯出し作業をされるとのことで、Mariekeも吉田仏師も体験させていただいた。

糸鋸の音。ヒノキの香り。それらは私たちの工房と共通しているけれど、Mariekeはスケールの大きい現場に目を輝かせていた。吉田仏師も、どっしりとした糸鋸の安定感や空間の広さに、「いいなぁ」と小さく感嘆の声を漏らしていた。

あちこちで黙々と持ち場を守る女性たちの姿が印象的だった。まるで「紅の豚」に出てくるピッコロ社を思わせる。中には、東京から移住した母子もいらして、同じ工房のなかで共に働いていらした。子どもたちとその成長を見守る大人たちの幸せを願うお心は、地球環境にも向けられている。そんな工房のあり方、ものづくりの現場に宿るやさしい気配に温かく包まれ、どこかほっとしていた。

途中から、娘も合流した。萩野ご夫妻とは娘がまだ二歳の頃に一度お目にかかったきり。「大きくなったね」とあたたかな声をかけてくださる。娘は、木の香りと並べられたパーツの山に目をきらきらさせ、端材を手に取って離そうとしなかった。

お土産に、はねたパーツを2ついただいた娘。見せびらかす娘の手から受け取ったMariekeが、「クリスマスのクッキーみたい」と微笑んだ。

そこから話題は自然とクリスマスに移った。

「みんな、物語は信じていないけれど、家族や友人と一緒に過ごすために祝っている」と、彼女は言った。

「日本もそう。キリスト教徒でなくても、楽しんでいる人が多いよ。」と私も返す。

1時間くらい拝見できたらと思っていた工房見学だが、萩野社長やスタッフの皆様のご配慮でたっぷり堪能させていただいた。工房に帰り着いたころには、とっぷり日が暮れていた。

夕飯のインドのカレーを頬張りながら、今日見たこと、聞いたことを様々に振り返る。

仏像を作る現場。おもちゃを作る現場。同じ木を使うが全く意味合いの違うものになる。

「Interesting ! 」

Mariekeの見聞録は、まだまだ続く。