現代造佛所私記 No.8「閑人調」

2023年8月のある日、三人の知人からそれぞれに「閑人調で書いてみませんか」というお誘いがあった。

「閑人調」とは、高知新聞の学芸面にある名物コラム欄だ。

1959年4月1日付の朝刊から60年以上続いていて、執筆者は私のような外部者や、新聞社OB、ベテラン記者の計10~15人ほどが輪番で担当している。連絡をくれた三人は、閑人調の先代執筆者と新聞記者で、私を推薦してくれたのだ。

「閑人」は字の通り、「暇人。俗用を離れ、ゆっくりした生活をしている人。風流なすまいをしている人」。皆さん実際はそれぞれお忙しいと思うが、力を抜いて身の回りのことや頭に浮かんだことを書いてみる、そんなミニコラムだ。

月初めに所属と名前がコラム下に記載されるが、筆者の情報は本文末にペンネーム1文字のみ。私は、「菊」というペンネームで担当させていただいた。

これまでコラム執筆の機会は何度かあったが、毎月1〜2回決まった字数を描き続けるのは初めてのことだった。

「心のスープから何を掬い上げようか?」
それが一番悩むところだった。

仏師の日常や仏像のこと、子育てのこと、雅楽、茶道、PR、普段体験していること…。「卑近だろうか」と感じつつ赤裸々に書いた。

テーマ選定に困ったときは、掲載予定日の記念日を調べてそれにちなんで書いたりした。

テーマが決まればあとは書くだけ。他の著者さんはどうかわからないが、私は白紙のテキストファイルにどんな文章が描き出されるのか、読者のような気持ちでドキドキしながら待っているところがあった。

自分でも予想ができない景色が、520字に毎回浮かび上がった。

痛感したのは、決まった字数におさめるには工夫が必要だということ。長く書くことの方が意外と易しい。

初稿はだいた600〜700字くらいになる。そこから言葉を削いで推敲し、論説委員の方に校正していただき、さらに彫琢する。このプロセスはとても楽しかった。

締切に間に合うように一定の品質で執筆する、よき緊張感の中で書かせていただいた。

「執筆は仏像製作と似ている」
これは常々思うところだ。

吉田仏師(夫)との会話では、「今荒彫りみたいな感じ?いや、木取りかな」などと経過を共有しあったりする。

閑人調の読者の皆様から、嬉しい感想をいただくこともあった。「菊」の続投を願う投書もあったときく。その人にあったらきっと旧来の友人との再会のようにハグしてしまうだろう。

この3月末で筆を置くことになり、一度も締切を破らずやり切れた充実感を噛み締めている。後継の著者も新聞社へ紹介でき、役を果たせたと晴れ晴れとした気持ちだ。

本当に幸せな一年半だった。

そしてこの造佛所私記は、いわば「一人閑人調」である。

月1〜2回だったのを今月から1000日継続するという、酔狂な挑戦を始めたところだ。

マニアックな世界を垣間見たいという奇特な方はぜひ、引き続きお付き合いいただきたい。