現代造佛所私記No.77「インターン(5)」

ドイツからやってきたインターンのMariekeと囲む食卓。

日夜のこの時間が、芽吹いたばかりの関係性を栄養する。

来日前、「アレルギーも好き嫌いもない」と伝えてくれていた彼女だったが、実際に一緒に食事を摂ると、魚介類はあまり得意ではなく、甘いものも好まないことが分かった。また、薄味の酢の物や乾物料理も、箸が進まないようだった。

ならば、と、味のはっきりした献立から始めた。初日の餃子パーティーに始まり、ビリヤニ、カレー、唐揚げ、和風パスタ。どれも「美味しい!」と完食してくれた。

唐揚げは、もし口に合わなかったらいけないと、ポテトとチーズのグリルを副食として作っていた。幸い唐揚げも平らげたが、「実は、口に合わなかった時のためにこれを作ったんですよ」というと、「まさにドイツ人が作る料理みたいです!」と笑った。

昼食は、パンと肉のおかず、グリーンサラダに季節の果物の組み合わせ。

ワンプレートに「なんてカラフル!」と目を輝かせる。トマトはちょっと苦戦しながらも、お箸で上手につまんでいる。

今日はお昼に豚の生姜焼きを作った。彼女の舌にとても合ったようで、材料や調味料の質問が飛んだ。味醂の瓶を手に取ると、写真まで撮っていた。どうやら、帰国したら作るつもりらしい。今が旬の小夏もよほど気に入ったのか、スーパーでは自分用に一袋抱えて帰ってきた。

昨夜の夕食では、キャベツと豚肉のアーリオオーリオペペロンチーノに、コンソメスープとサラダ。私はZoom会議で一緒に食べられなかったが、後から「美味しかった!」と笑顔で完食の報告を受けた。

「いただきます」「ご馳走様」も、私たちと一緒に口にする。発音も日ごとに上達している。

そんな食卓の空気は、沈黙さえも箸休めのように良いリズムを作る。

初日から、不思議とそうだった。彼女の人徳だろうか。異文化に対して焦らず、騒がず、ただ静かに味わい、受け止める。そんなMariekeの姿勢に、こちらも自然体でいられる。

今夜は、彼女が一番食べたいらしいラーメンを食べに店に足を運んだ。二郎系の山のような野菜に、太麺。「Udon?」と首をかしげる彼女に、うどんよりは細くて味も違うよ、と答える。啜る音にもためらわず、ちゅるちゅると一生懸命食べていた。食後には、飛び散ったスープを丁寧にティッシュで拭き上げる。麺を啜る音は苦手なのではないかと心配していたが、きっと事前に日本式の食べ方を学んできたのだろう。

仏像や茶道具、器、音楽の話も、食卓を囲みながら絶え間なく続く。彼女が手に取った漫画「へうげもの」。どこから読むの?と戸惑いながら、じっとページをめくるその姿に、物事を深く、長く、じっと見つめる人なのだと思った。

「This internship is very profound. シンエン(深淵)。」と、彼女は言う。profound――心の奥までしみる深い学び。けれど、それはこの場にあるのではなく、彼女自身がその深さを持った人だからこそ、日々がそうなるのだと、私たちは思う。

滞在5日目、まだまだ続くインターンシップなのに、「ドイツで和食がきっと恋しくなるから、地元の高い日本食レストランに通ってしまう」としょんぼりした顔を見せた。

同じ釜の飯を食う。その意味を、静かに噛みしめている。