「あの30時間煮込んだ膠ね〜」
夕食後の学習時間を終え、机の上を片付けながら、娘が突然話し出した。
30時間煮込んだ膠とは、夏休みに取り組んだ自由研究の素材のことである。
生え変わりで抜け落ち、あたりに落ちている鹿角を採取し、砕いて煮込む。すると、膠が抽出できる。
それを煮込み時間ごとに分け、煮凝りを乾燥させ、再び湯で適当な粘度に溶かして、接着力を比較した。
6時間、12時間、24時間、30時間。
引っ張り試験や捻り試験をしてみると、一番強く接着していたのは、30時間煮込んだ膠だった。
「普通に売ってるのと比較してみて……。強さとか、水の溶けやすさとか」
ふむふむ、と相槌を打ちながら、私は内心にわかに緊張する。新たな研究テーマでも芽吹いたか。
「なんか色とか混ぜたら、また変わってくるかもねぇ! 自由研究にはしないけど、強くて、使いやすくて、腐りにくい膠が作れたら、欲しい人がいるかも?!」
どうやら娘は、想像以上に接着力の高い膠ができたことから、その使い道や更なる品質向上を考え始めたらしい。
ほかにも欲しい人がいるかもしれない。
もっと使いやすくするには、どうしたらいいだろう。
そんなことをあれこれと巡らせている。
消しゴムの粕を集める手を止め、娘がハッと顔を上げた。
「あ、全然量が足りないね。鹿の角、もっと集めなくちゃ」
そうだねぇ、原料が足りないねぇ、と私も適当に合いの手を入れながら、机の上を片付ける。
「自由研究はしないけどね、もっといい膠ができないかなぁ」
その発想はもう、自由研究の萌芽だよ。とは言わないでいた。関心が、ひとつのところで終わらず、また次の「気になる」へと伸びていくのを見るのは、なんだか嬉しい。
急がせず、無視もせず、しばらく見守っていたいと思う。
でも、その直後につい言ってしまった。
「わかった、まずは早くお風呂に入ってきて」

