現代造佛所私記 No.544「ノーベル賞イベント前日」

夏休みも終盤。図書館の駐車場は満車らしく、空きを待つ自動車が道路に列をつくっていた。

ウィンカーを点滅させ、我が家の車もその列に加わる。

翌日この図書館で開催される「ノーベル化学賞受賞記念特別講演」に、娘は発表者として参加させていただくことになっていた。

今日は、そのリハーサルである。

パソコンと原稿を手にした娘とともに、四階のホールへ向かう。

昨年、このホールでは二度発表する機会があった。懐かしい空気に、一年前の緊張も蘇る。

しかし、まさか三度目があるとは、あの頃は想像もしていなかったなぁ…と言いつつ、どこか「これで終わらなさそう」という根拠のない予感もなんとなくあった。そのため、手作りの検査台なども、そのまま保管していた。

それ以上に、人前で自分の考えを伝えること、表現を工夫することは、これから先、娘にとって重要な経験になるだろうと考え、夫婦で娘の背中を押したのだった。

担当の職員さんが優しく導いてくださり、リハーサルは無事に終わった。

「5階に行きたい!」

娘は、この建物の最上階にある「高知みらい科学館」が大好きで、終わるなり「遊びたい」とねだった。

しかしもう夕刻。明日に備えて早く帰ろう、と促す私に、抱きついて口を尖らせ体重をかけてきた。

「じゃあ、その代わりに」と、すぐそばの書店へ寄ることを提案した。

図鑑や歴史漫画、大好きな『ちびまる子ちゃん』。あれもこれもと手に取って、どれにしようかと思案している横顔を見て、すぐに声をかけた。

「がんばったもんね。全部プレゼントさせて」

「ほんと?!やったぁ!!」

探究する喜び。
思うようにいかない難しさ。
知ることの面白さ。
そして、学校で学んできた基礎。

そうしたものを一つずつ持ち寄り、自分が知ったこと、考えたことを、人に伝わるかたちへと編み、磨いていく。

十歳には手強いことも、たくさんあった。

それでも、途中で投げ出さず、分からないところに食らいついた。

そのことを、今日は褒めてやりたかった。

明日はいよいよ本番だ。

同世代の子どもたちからシニア世代まで、そして報道陣もいる。きっと緊張するだろうけど、自分らしくね、と肩を抱き寄せる。

場を楽しんで、伸び伸びと表現してほしいと思う。