毎年7月に入ると、お盆の気配が少しずつ濃くなってくる。
今年はいったい8月にはどれほどの暑さになるのだろうと、震えるほどの暑さだった。暑さに耐える中、いつの間にか子どもの夏休みが始まり、同時に「いつ帰省するのか」と、故郷から連絡が入り始める。
お盆の始まり。その時期になると、普段なら起こらないような、妙なことが起こることがある。
偶然であり、因果であり、何かとの応答であり。
それを解釈するでもなく、断定するでもなく、心に引っかかる出来事としておりにふれ温めている。
今年の夏も、二つ三つほど妙なことが起こっている。
ひとつは、朝のコーヒー休憩の時だった。
いつものようにカフェインレスコーヒーを淹れようと、台所でカップやドリッパーを鼻歌まじりに並べていた。
コーヒーを淹れるのにぴったりの、細口のステンレスポットを火にかけ、湯を沸かす。
いつものようにコーヒー豆を蒸らし、立ちのぼる香りを思い切り吸い込んだりして、味わいの予感に胸を膨らませていた。
ところが、徐々に濾過されていくコーヒーの粉の中から、ロープのような形が浮かび上がった。
「……? 麻紐がどこからか紛れた?」
そこにあるはずのない形に目を凝らす。
よく見ると、ムカデだった。
ポットの中に入り込んでいたのだろう。
すまないことをしたと思い、ムカデをお経とともに弔った。
美味しそうな香りのコーヒーだったが、断念し、お茶を淹れ直した。
コーヒーの中から現れたムカデにギョッとしたのは確かだが、最初に思ったのは、危険を避けられたことへの安堵と感謝だった。
いつもなら、ポットの中を確認してから湯を沸かすのに、この日はうっかりしていた。
用心して、手順を省かない。
その戒めをいただいたのだと、ありがたく思ったことだった。(後編へ続く)

