「———高校二年の春休み、両親と妹と、同じクラスの友人と、楠久…ここに来たんです。皆で祖母の家で泊まって、次の日は朝から田おこしを手伝うことになっていて」
タオルで首元を拭いながら、大樹は続ける。
「父親が納屋からトラクターを持ってくるまで、僕と友人は森の端で遊んでいたんです。そのうち、友人がふざけて木の枝に登って。僕は危ないって止めたんですけどやめてくれなくて。そのうち、枝が折れて…そこへ来たんです。父のトラクターが」
雨音だけが続いた。
「父は咄嗟に、友人の体を支えようと身を乗り出しました。その勢いで脱輪して、そのままトラクターごと棚田へ転落して…数センチずれていたら」
呼吸を荒げ肩を揺らす大樹の背中に、ヒナはそっと手を添えた。
「友人は幸い、腕の骨折で済みました。でも、そいつはスポーツ推薦を狙っていて。その後ずいぶんと拗れました」
大樹は唇を軽く噛んだ。
「父は、友人のことも、僕のこともいっさい責めませんでした。手術とリハビリをして一年後、なんとか日常生活が送れるようになったんですが、障害者手帳をもらって、部署も異動して———…っ」
「お友達を、真剣に止めたんですよね」
ヒナが静かに言葉を引き取ると、勢力を増す雨音が、大樹の嗚咽をかき消した。


