麺を啜る音が居間に響く。湿気とカビ、獣、そして出汁の匂いが並列していた。
「あーおいしかったです。ご馳走様でした」
空腹だったのだろう、ヒナはあっという間に完食し、ペチンと手を合わせた。心なしか頬に赤みが差している。大樹も手を合わせ、目を伏せた。
「そうだ!私、羽田で試供品のハーブティを貰ったんですよ。よかったら飲みませんか?」
ヒナがリュックからパックを二つ取り出した。「カップあります?」
大樹はコンテナから紙コップを出し、保存食のビスケットとチョコも、卓上に並べた。
「これ大樹」
タキだ。伏せた写真立てをそっと覗くと、起こせ、と手を上下に降っている。大樹はヒナが茶を淹れる背中を見やり、写真立てを直した。タキは、服の乱れを整えるようにして、大樹の目をじっと見つめた。
「森のこと、おおきによ。———時々は帰って来いよ。ほんで、お父さんにも顔見せちゃり」
「———わかった」
突然、タキが、目に涙を浮かべて言った。
「———大ちゃんよぉ、あれはおまんのせいやない!お父さんもそう思うちゅう」
タキは写真の中の幼い大樹を抱きしめ、顔を撫でて、フレームいっぱいに近づいてこちらに手を振り、再びかちりと写真に戻った。
「わぁ、おやつだ!楠本さん、なんでも出せるんですね」
ヒナがハーブティを座卓に置きながら、目を輝かせた。そして、ギョッとした。
「どうしました?どこか痛みますか?」
「え?あ、いえ、何もないです。何も…」
夕立に打たれたかのように、大樹の顔からポタポタと雫が落ちていた。
紙コップの湯気が、大樹の呼吸に応じて白く揺れていた。二人は並んで座っている。(続く)


