蝉の声が作業場の外から響いてくる。曇り空だった朝もいつの間にかすっかり晴れ、彫刻室として使っているロフトには、容赦ない熱が蓄積していた。
「今日は下で撮影しようか」
まもなくお納めする阿弥陀如来像の最終確認と完成写真の撮影の日。いつも撮影に使っているロフトは、この暑さでは人も仏さまも大変である。今日は比較的涼しい一階で撮ることにした。
木地に繊細な截金が施されたご仏身を、どうすればその美しさまで写真に残せるだろうか。
夫と私は照明の位置を変え、光の強さを調整し、窓から差し込む自然光をカーテンで加減しながら、何度も角度を探った。
今回、截金をお願いしたのは、夫と十年以上のお付き合いになる截金師・並木秀俊さんである。繊細で優美、それでいて凛とした品格を湛えた截金と、控えめに施された彩色。その姿に、私たちは何度もうっとりとため息をついた。
もちろん、その美しさは実物をご覧いただくのが何よりだ。それとは別に、完成した姿を記録として残すことも仏像工房として重要視している。施主様へお渡しする仕様書にも掲載するため、一枚一枚、丁寧にプレビューを確認しながらシャッターを切っていく。
撮影を始めると、それまで気づかなかったものが見えてくる。
レンズを向ける角度を変え、細部まで拡大していくと、「わぁ、こんなところにも!」と時折感嘆の声が上がる。衣の裏側や裾の、パッと見ただけでは目につかないところにまで、きっちりと截金が施されていた。
見えないところにも決して手を抜かない。
その誠実な仕事の積み重ねが、お仏像全体に静かな品格を与えていることを、改めて教えられた。
「神は細部に宿るっていうからね」
昔から夫はよく言っているが、截金の並木さんの技にも強くそれを感じる。
木地に截金を施すという仕様は、荘厳性を大きく高めながらも、現実的なご予算の中で実現できる美しい選択肢の一つである。木の温もりを生かしながら、金の光が仏さまの尊さを引き立ててくれる。
「喜んでいただけるといいね」
「きっと喜んでくださるよ」
そんな言葉を交わしながら、照明をたたみ、カメラを片付ける。
完成の喜びと、工房から送り出す少しの寂しさ。その二つを胸で温めながら、私たちは作業場を後にした。

