昨年夏、ちょっとした思いつきから、娘は自由研究で接着剤の接着力を比較した。
現代造佛所私記 No.180「看板娘の課外授業」
好奇心旺盛の一方、おっとりした性格、そして面倒くさがりな面もあり、研究を始めたはいいけれど途中で「もうやめる」と弱音を吐きながらも、なんとか模造紙に調べた結果を書き上げた。
その後、高知県大会、四国大会と発表の機会をいただき、初めてスライドを使ったプレゼンテーションにも挑戦した。娘にとっては大きなチャレンジで、立ちすくむような思いも味わったようだ。
「もうこれで終わり!」
と自由研究は懲り懲り、といった様子だったが、漆や膠などの古典的な接着剤にロマンを感じ、小さな関心と、小さな好奇心が種のように残ったらしい。
「接着剤って作れるの?」「強い接着力ってどうすれば作れるの?」
鹿の角から膠が作れるよ、という私の言葉に、パッと顔を上げて「えっ!面白そう」と目を輝かせた。
膠は、鹿皮や牛皮を原料にしたものがよく使われているが、仏像製作の現場で、鹿角から抽出した膠を使うことがある。
接着剤や写経用の墨にも用いられている。抽出の条件を変えると、生薬としても用いられる「鹿角膠」となる。
小学生の娘にとっては、鹿皮を手に入れ扱うのは容易ではないが、鹿角なら家の周りや小川のほとりで採取できる。今の住環境においては身近な素材なのである。
「やってみたい」
大きな舞台での発表は遠慮したいということだったけど、実験や研究はしてみたいらしい。
父親に手伝ってもらいながら、鹿角を砕き、条件を変えながら煮込み、膠を抽出している。
煮込み時間が異なる膠で接着力を比較しようというのだ。
「本当にできるんだねぇ。できるもんなんだなぁ」
文化財修理で膠を扱う夫だが、もっぱら市販の膠を使うため、実際に子どもでも手作りができることは驚きだったらしい。
もちろん、市販の膠ほど安定した品質にはならないだろう。それでも、家の周りで拾った鹿角が、時間をかけて接着剤へと姿を変えていく。その過程を自分の手で確かめられたことは、娘にとって何にも代えがたい発見に違いない。
小さな好奇心の種が、新しい夏に芽吹こうとしている。


