現代造佛所私記 No.510「墨擦りと筆洗い(1)」

昨年、偶然再会を果たした高校時代の古典の先生(現代造佛所私記No.138「ご縁開いて七言律詩」)のこと。

高校3年生の時、古典の情緒的な面白さ、趣、受験のテクニック的な部分を全て凝縮したような授業が忘れられない先生だった。

その冨岡豊英先生から、少し前にハガキをいただいた。代表をお勤めになっている書道の会の記念すべき40回目の展覧会のご案内だった。

「やったぁ」

機会を逃すまいと、冷蔵庫にマグネットで貼り付け、手帳に書き込んだ。

昨年、先生の会の皆様の書表現に圧倒されて、「これは来年ぜひ夫や娘も連れてきてあげたいなあ」と、機会を窺っていたのである。

用事を済ませいざ会場に向かうと、受付に先生がいらした。夫のこともTVや新聞で知ってくださっていて、仏師の仕事の話題にも触れ、温かく迎えてくださった。

先生の作品も、会の皆様の作品もどれも自由で個性豊かだった。空調がよく効いた天井の高い広い会場の中を、夫も私もそして娘も、悠々と泳ぐように家族で自由に鑑賞した。

「この漢字が好き!この字も!これ、果の字がフニャってなってるのが面白いね!」

暑さで疲れていた娘が、まさに水を得た魚のようにはしゃいでいた。踊るように作品の自在な字を体で真似したり、目を輝かせてつま先立ちになり、古い中国の文字を指差した。

先生は、他のお客様の対応の合間にも私たちのそばへ来ては、作品や作者の背景を教えてくださった。書の嗜みがない私たちも、先生と一緒に作品の世界へ潜っていくうち、次第に没入していくのを感じた。