現代造佛所私記 No.492「二星」

雅楽に「二星」という朗詠がある。

二星適逢 未叙別緒依々之恨 五更将明 頻驚涼風颯々之声

二星たまたま逢ひて
未だ別緒の依々たる恨みを叙べず
五夜将に明けなんとして
頻りに涼風の颯々たる声に驚く

旧暦の七夕の節句まで1ヶ月以上あるけれど、気分はもう七夕である。

町にも、学校にも、笹の葉と色とりどりの短冊が揺れて目を楽しませてくれる。

我が家でも、週末に父娘でこしらえた七夕飾りが揺れている。

居間には私のための短冊も用意されていて、筆ペンが脇に添えられている。夫と娘は先に二人で短冊に願いを綴り終え、一緒に飾るのを待っていた。

さあ、私はなんと書こうか。そんなことを考えていると、ふと「二星」の旋律が頭に浮かんだ。

昨日も気の置けない茶友たちと雅楽の話をしていて、「二星」という歌があって…と話すと「あぁ!織姫と彦星のふたつ星のことか」と関心を示していた。

数年前からこの朗詠のことは知りつつ、歌う機会も奏でる機会もなかったが、今日は譜面を取り出して、一人で歌ったり、笛を奏でてみたりした。声は思うように出ないところもある。

いつしかひぐらしが鳴き始め、日が暮れると虫の声も聞こえてくる。これからくる本格的な夏と、その先の秋を孕んだ兆し、しっとりと切ない朗詠二星の響きのなんとも言えない風情に包まれた。

今や、夫婦も多様なあり方がある。うちは、二人で工房を運営しているので、一緒にいる時間は多い方だと思う。それでも、作業場と事務所で一人で過ごす時間も割合たっぷりある。

織姫と彦星の、会えた喜びと別れの寂しさを朗詠で味わっていると、私たち夫婦も仕事の手を止めて顔を合わせたとき、ふぃっと胸の内が明るくなる、そんなささやかな心の動きを思った。

こうして共にいられることは、決して当たり前ではないのだよなぁ。

いくつもの日々の積み重ねの先に今があるのだと、ゆったりとした歌の響きに身をゆだねながら味わう夜である。

そろそろ筆をとり、願いを書こう。