現代造佛所私記 No.472「小豆の匂い」

本当なら、この間の週末に、出来立ての薯蕷饅頭を、家族でいただくつもりだった。

それで、甘さ控えめの我が家気に入りのつぶあんを仕込んでいたのだが、肝心の山芋(大和芋)が手に入らず、「じゃあ、和菓子の日にしよう!」と延期したのだった。

ところが、ここ数日ほど探しても、お目当ての芋に出会えない。長芋は旬で、店頭にたくさん並んでいるが、大手の産直スーパーにも見当たらず、途方に暮れた。

昨日、お茶の稽古の帰りに、地元の行きつけのスーパーでダメもとで探してみると、

「あっ!あったー!」

思わず、声を上げてしまったが、探しに探した「大和芋」が一つだけ、小さなスペースにころんと横たわっていた。

緑の「大和芋」と言う文字が、嬉しくて仕方がない。大きさも十分。やっとこれで、家でお饅頭が作れる。

「遅かったね」

夕飯時を過ぎても戻らぬ妻を、夫が迎えてくれた。

「今度作る薯蕷饅頭用のお芋、探してて……。Yちゃーん、欲しいお芋があったよ!」

「ほんと!これで明日作れる?やったー!」

今、この戦利品の価値を、最もわかってくれる娘の声に、報われる。しかし、彼女が続けて申し訳なさそうに言った。

「でもね、明日下校遅い日なの…」

そうか、和菓子の日は帰宅が遅い日なのか。夕飯直前に作りはじめるのは最善とは言えない。

「じゃあ、その次の日にしよう」

薯蕷饅頭は逃げない。和菓子の日を過ぎても構わない。なぜなら、今年で10周年となる工房のお祝いのお茶席のためだからだ。

ただ、粒あんのタッパーを開けてじっと見つめてしまった。

夫も大好きな我が家の粒あん。おやつに食べたらしい親指大の穴が空いていた。

多少足りなくても良かろう、なんせお祝いの正客は造佛所の所長である彼自身なのだから。

工房の誕生日は、ほんのり小豆の香り。