本当なら、この間の週末に、出来立ての薯蕷饅頭を、家族でいただくつもりだった。
それで、甘さ控えめの我が家気に入りのつぶあんを仕込んでいたのだが、肝心の山芋(大和芋)が手に入らず、「じゃあ、和菓子の日にしよう!」と延期したのだった。
ところが、ここ数日ほど探しても、お目当ての芋に出会えない。長芋は旬で、店頭にたくさん並んでいるが、大手の産直スーパーにも見当たらず、途方に暮れた。
昨日、お茶の稽古の帰りに、地元の行きつけのスーパーでダメもとで探してみると、
「あっ!あったー!」
思わず、声を上げてしまったが、探しに探した「大和芋」が一つだけ、小さなスペースにころんと横たわっていた。
緑の「大和芋」と言う文字が、嬉しくて仕方がない。大きさも十分。やっとこれで、家でお饅頭が作れる。
「遅かったね」
夕飯時を過ぎても戻らぬ妻を、夫が迎えてくれた。
「今度作る薯蕷饅頭用のお芋、探してて……。Yちゃーん、欲しいお芋があったよ!」
「ほんと!これで明日作れる?やったー!」
今、この戦利品の価値を、最もわかってくれる娘の声に、報われる。しかし、彼女が続けて申し訳なさそうに言った。
「でもね、明日下校遅い日なの…」
そうか、和菓子の日は帰宅が遅い日なのか。夕飯直前に作りはじめるのは最善とは言えない。
「じゃあ、その次の日にしよう」
薯蕷饅頭は逃げない。和菓子の日を過ぎても構わない。なぜなら、今年で10周年となる工房のお祝いのお茶席のためだからだ。
ただ、粒あんのタッパーを開けてじっと見つめてしまった。
夫も大好きな我が家の粒あん。おやつに食べたらしい親指大の穴が空いていた。
多少足りなくても良かろう、なんせお祝いの正客は造佛所の所長である彼自身なのだから。
工房の誕生日は、ほんのり小豆の香り。


