現代造佛所私記 No.463「10歳のお茶席」

お世話になっている方がお席もちをなさる表千家の月釜に、娘連れでお邪魔した。

娘は、茶道のお稽古は未経験だ。練り切りを作ったり、茶筅をふったりする程度で、あくまで遊びの延長のようなことしかしていない。

だが、誘うと「いく!」という。白い靴下を履き、扇子をもち、いざお席に入った。

季節感にあふれた素晴らしいお道具の取り合わせに、和やかな雰囲気。

「ちょっと緊張する」 と言いながら、娘は目を輝かせていた。

お辞儀もままならない、肘を張った大袈裟なお辞儀に、ポニーテールがひっくり返る。

(脇をもっとしめて、髪がひっくり返らない程度に)小声で嗜めるが、肘だけは最後まで矯まらなかった。

「!!」

主菓子を口にして、私の顔を見て目を見開いた。初めての黄身餡に、感動したらしい。

「ねぇ、あれもっと食べたいよ」と耳打ちしてくるのを見て、お隣のかたがクスッと笑った。すみません、と頭を下げ、娘に(お茶が出てくるからね)と背筋を伸ばすようにジェスチャーした。

「お菓子美味しかった?お茶、薄めにしようか」

その様子に気づかれたお席持ちの先生が、優しくお声をかけてくださり、娘はポニーテールを揺らしてうなづいた。

「美味しい!お菓子とお茶、おかわり」その声が、誰にも聞こえていないことを願った。

お茶碗が空になるにつれ、座は温まり程よい賑わいで満ちていく。和やかな御亭主と御正客のやりとりに耳を澄ませていると、微かに鼻歌が聞こえてきた。

(しーっ)

慌てて唇に人差し指を当てる。ご機嫌になった娘が、鼻歌を歌い出したのだ。本当に思いもよらないことをしてくれる。

本当に素晴らしいお席を楽しませていただいたと同時に、親としては冷や汗をかくような時間でもあったが、お席が終わってから、皆様が次々と温かなお声をかけてくださった。

「またきてね」「今度はお運びしてね」「きてくれてありがとう」「毎月おいで」

申し訳ないやらありがたいやら。複雑な思いと共に、娘がお茶を楽しんだことが心をどこか明るくさせた。

おかわりができないことが残念そうな娘に、今度家でまたお茶会しようね、一緒に薯蕷饅頭作って、お茶たてよう、というと「ほんと?いつやる?明日?」とまたポニーテールを揺らした。