現代造佛所私記 No.46「炭と夜なべと白湯」

「部屋とワイシャツと私」、みたいなタイトルになった。

締切前の仕事に思いのほか時間がかかり、夜更けになった。

少し冷える春の夜。火鉢に火を入れてみようと思い立った。

久しぶりの炭火だ、と思うとワクワクする。良い気分転換にもなろう。

炭を保管しているブリキの箱を奥から引っ張り出し、大きなもの、細いもの、火が回りやすいように組むためにいくつか選ぶ。

火箸を使って「カサ、コト…」と火起こしに並べると、乾いた炭同士がぶつかって小さな音を立てた。

コンロにかけてしばらくすると、「パチ……パチ…」とかすかに音がなり始める。最近は雨も続いたが、炭はよく乾いていた。

程なく、「パチ、パチパチ」と炭がはぜる音がリズムを刻みだす。炭色の体の端っこも赤く染まり出した。

火鉢の中に空気の通り道を作りながら、大小の炭を仲良く組んでいく。

朝一番に電気香炉で使っていた練香を、火鉢に移した。その途端に、白檀の香りが呼吸を誘う。

ヤカンをのせて、白湯を沸かす。

しばらくすると、小さなシューという音が立ち上ってきた。「今頃はこれくらいの気泡の大きさかな」。見えないヤカンの内側の様子を目に浮かべるのも、どことなく趣を感じる。

仕事に夢中になっている間に、いつの間にかシュンシュンと細い湯気が元気よく飛び出していた。

「美味しそうだなぁ」

今日は外で打ち合わせもあり、カフェインを摂りすぎてしまった。こんな日は、炭火で沸かした白湯が沁みるだろう。

なんとなく、炭火で沸かした白湯は、とろみがあるような気がする。あたたかく口中からのどを通り、胃に広がっていく。

こんなに美味しい飲み物があるだろうか──
夜なべ作業のあいまに、しみじみとする。

思えば、火鉢を使うのはこの冬(というか春か)初めてかもしれない。

炭の手触りも、音も、匂いも、すべてが「今」に身体を戻してくれる。

澄んだ音に耳を澄ましながら、白湯をゆっくり味わい、ポツンと灯りのついた机でひと息ついた。

「今日もようがんばったのう」

パチパチと小さな拍手をしながら、だいぶん白くなった炭が語りかけてくれた気がした。