土曜日、休日の娘を連れて、彫刻室を覗いた。
定期的な記録撮影の日だ。5月らしい陽光の中で、夫の手元で、手のひらに収まるほどの小さな仏様が生まれようとしている。
娘は飽きて早々に退陣し、残った私は無言の彫刻室でひたすらシャッターを切り、動画を撮影した。
小さな仏様は、手のひらにおさまる可愛らしさでありながら、どこまでも円満だ。
ひとしきり撮影した後、細い刃先の一刀一刀を受け止め、木から仏様が現れる様をしばらく黙って眺めていた。
外に出ると、工房の隣の柿の木が、新緑に輝いていた。この工房に来て10年、天ぷらで食べると美味しいと聞くけど、ついぞ食べる機会がなかった。
事務所に戻り、撮影データのバックアップを取り、機材の充電を行なっていると、娘がお腹が空いたという。パンケーキでも焼こうか、というと娘にはっきり喜色が浮かんだ。
満月のようなふっくら丸いパンケーキが焼けて、夫にも電話をした。
「パンケーキが焼けたけど、食べる?」
このパンケーキの素は、埼玉におられる大仏師である師匠と、師匠のお嬢様からいただいたものだった。
夢中でパンケーキを頬張る娘の横で、今しがた撮影した小さな仏様の写真を確認する。
「手のひらの仏か」
そのフレーズを口にした途端、10年前が思い出された。
東京の浅草橋のルーサイトギャラリーで、夫は初個展を開いた。タイトルは「手のひらの仏たち」。1年かけて仏像や仏像に関連した作品を40点作った。私はその1年の間に妊娠、出産をして、個展のときには生後8ヶ月になった娘も加わって、家族総出で臨んだ。両親もはるばる四国から来てくれた。夫の師匠とお嬢様も、家族お揃いで来てくださった。
2階のカフェスペースで憩う来場者と、再会を喜び合い、初対面のご挨拶をする私の前に、隅田川がとうとうと流れていた。
個展はもう数年も出来ていないが、あのときの個展で生まれた小さな仏様たちは、ぽつり、ぽつりと縁を得て、手元から旅立っている。
三人でおやつの時間を過ごすと、夫は再び小さな仏様の元へと玄関を出た。
娘が満足げな顔で、私の前に座っていた。
アイキャッチは、個展会場でハイハイする娘。


