「お母ちゃん、せんざいいしきってなぁに?」
パソコン仕事をしていると、娘が顔を覗かせた。
「えっ?潜在意識!?あぁ——こっちへきて。絵に描いて説明するね」
横に丸椅子を置いて手招きした。あぁ、あのときのだろうな、と思い当たる。
GW中、牧工房の内田牧子さんに誘われて家族で出かけたオーガニックマーケット。敷地に入る前から、幸せになる香りが漂っていた。香りをたどると、その先にまきさんのブースがあった。
「自分の香りを作れるよ」
テーブルの上の一角に興味を示した娘に、まきさんが優しく語りかけて下さった。遮光の小瓶がいくつも並び、その横に小さな水晶のネックレスがあった。まきさんが、娘の右手にチェーン付きの水晶を持たせて下さった。
娘は何も知らない。言われた通りに、小瓶の真上から水晶を垂らした。しばらくすると、水晶が揺れ始めた。
「わぁ……?!」
娘がちいさな歓声を上げた。
「これ、誰が動かしてるの?」
「自分が動かしてるんだよ。潜在意識っていってね、Yちゃんも知らないYちゃんが、今必要なものを教えてくれるの」
まきさんが答えた。
観念運動現象——顕在意識で捉えきれない膨大な情報を、潜在意識、無意識が筋運動として出力する現象だ。
横揺れだったり、クルクル回ったり。香りによって反応も強度も違う。娘は夢中になっていた。やがて四つの香りが選ばれ、まきさんがブレンドして下さった。
「いい香り!嬉しい!」
娘は、何度もシュッと髪や手元に吹きかけては、深呼吸していた。
翌日のことだった。潜在意識とは何か、と訊ねられたのは。
私は、メモ用紙を出して、流氷と海面の絵を描いた。これがYちゃんの知っているYちゃん。ここを顕在意識というの。海の下は、Yちゃんも普段知らないYちゃんの心の中。ここが潜在意識。 だから、あの香りは、この知らないYちゃんが選んだ香りなんだね。
「わかっている自分は、これっぽっちなの?不思議」
娘は、最後にこう書いて作文を締め括った。
「かいでみたら、とてもいいにおいがしました。すると、私のこころがウキウキしてきました」
そうして、ティッシュに香りを吹き付けて、帳面に挟み込んでいた。


