現代造佛所私記 No.43「休日の朝の匂い」

日曜日の朝はゆっくりだ。体内時計優先で、光や匂い、味に素直に心開く日でもある。

夫は休みの日も、起床時間は少しゆっくり目であること以外は、作業場のルーティンを守る。

仏像に触れない日はない彼の人生を、今日も讃えたい。讃えながら、冷蔵庫を開ける。

「チャッ」というパッキンの吸着が外れる音に、ビン類が「チン」と透明感のある高い音を鳴らすと、すぐさま「とてててて…」と小さな足音が聞こえてくる。

黒猫のウニだ。
冷蔵庫の前の私の足元に、ぴょこっと姿を現し「なー!」となく。

目をまっすぐこちらに向けて「私に用があるんじゃないの?」と言う。

「ウニちゃんの食べ物はここにはないよー」と声をかけながら、ついスペシャルご飯を用意してしまう。

おやつのチュールをキャットフードにトッピング。なんせ今日は日曜だ。

(アイキャッチ画像は、スペシャルご飯が出るまで台所で粘るウニ)

昨日は家族揃って外食ばかりだったので、ちょっと胃腸も疲れていた。腹部を左手でさすりながら、今日は野菜たっぷりの朝ごはんを作ろうと決めた。

タッパーに仕込んでおいたパリパリのレタスとスプラウト。皿にこん盛りお山を作り、作り置きの切り干し大根の和え物と、ナッツをトッピング。

次に、春菊を洗って切る。「サクッ、ザクザク…」

スッと青い香りが立ち上り、視野がパッと明るく広がる。
ボウルにパッパと放り込み、玉ねぎ麹であえ、カットした茹で卵をのせ、海苔を揉んでぱらりとふりかける。

潮の香りがふわっと漂った。

今日は根菜でほっこりした味噌汁が飲みたい気分。

実家の畑で育ったさつまいもを、スパン、スパンと四角に刻んで水に晒す。すぐさまにんじんを拍子切りに。じわっと滲んで光る断面から、土の栄養をたっぷり含んだ甘く滋養に満ちた香り。

温まった出汁の中で具がすっかり柔らかくなったところへ、おたまに乗せた味噌を沈ませた。菜箸で筋を入れ、溶かしていくと、ふわんと包み込まれるような発酵の香りが鼻腔を満たす。

あぁ、こういう香りのなかに身を置くだけで、身体は回復するのかもしれない。

布団の中からアニメを堪能している幸せそうな娘に助けを求めると、意外にも「はーい!」と明るい返事。机を拭き上げ、配膳をしてくれた。

食事の合図のため、半鐘を叩きに小走りで表へ出る。日課のランニングだ。10秒だけど。

「お野菜いっぱい食べようね」

サラダ2皿、納豆、香の物3種類、大根おろし、フルーツとヨーグルト、味噌汁、炊き立てご飯。小さなちゃぶ台に所狭しと並ぶ皿から、さまざまな香りが漂ってくる。

「いただきます!」

猫たちは、夫の膝上の争奪戦を始め、そのうちレスリングを始め、和やかな食卓にスリルと賑わいをもたらしてくれる。

香りに包まれて始まる、日曜の朝。
時間に追われることのない、こういう一日が、週末の何よりのごちそうだ。