風の強い日だった。
工房から車で40分、農免道路を辿って北西へ。街の山際に、そのお寺はあった。駐車場から見上げた石段の先で、インド風の釈迦如来の石像がこちらを見下ろしておられた。
石段を登った先に庭。そして本堂と庫裡が現れ、辺りに静けさと穏やかさが漂っていた。強風が鳴りを潜め、色とりどりの花が陽光を受けて小さく揺れる。白や黄色の蝶がヒラヒラと舞う姿に目を奪われ、来た目的をふと忘れてしまう。
庫裡の入り口で、作務衣姿のご住職が出迎えてくださった。
通された応接間に吉田仏師と腰をかける。大陸の風情のある調度品や、伝統技術で作られた装飾品、表装されたお札。この部屋で、多くの人をもてなしておいでたことだろう。
程なくしてご住職が盆を持って現れた。螺鈿が施された卓に、小さくコトリと抹茶碗をおいた。 続いて「よかったらこちらもどうぞ」と、漆の銘々皿が差し出された。可愛らしい干菓子だった。
一服いただいたのち、破損したお仏像を前に、手当ての段取りについて話し合う。
その合間に、突然鋭いお伺いが吉田仏師にあった。
「仏はいると本当に思うか。仏像を作るとき、どう思って彫るのか」
吉田は、少し間をおいて、「それは難しいご質問ですね」と答えた。そして、一呼吸おいて言った。
「ただ、好きなんです。」
ご住職は少し相好を崩され、おっしゃった。 「ほんまに好きなんやなぁ!」
そして、大寺院の秘仏の像容について、子どもが仏像を作りたいというならこの学校にいくと良い、といった僧侶でないとなかなか知ることのできないお話を聞かせてくださった。
気がつくと、あれも、これもと、たくさんのお下がりのお品や食べ物をいただいて、吉田はずっしりとした紙袋を手にしていた。
二人でお辞儀をすると、突風が吹き上げた。ご住職は、まるでそれが合図といった様子で 「はい、またよろしくお願いします」 と合掌された。
石段を下って振り返ると、風にしなる木の下で、お釈迦様が微笑んでおられた。


