現代造佛所私記 No.424「忘れるはずが」

ここのところ、個人からのご依頼で、小さなお仏像の造像が続いている。

最近工房にお越しくださったある男性は、もともとは仏像に興味はなかった、とおっしゃった。それが今、観音様や如来様の並ぶ工房で、仏師と親しく話している。

「このお顔が好きやね」
「割れとかはどれくらいで出たりする?へぇ、内側をくりぬいているのか」

作品を見比べながら、ヒノキの経年変化をご覧いただき、話は、寄せ木づくりや造像法の変遷などにも及んだ。吉田仏師への質問が止まらない。また、私たちにたくさんのことを開示してくださりながら、交流してくださった。

この男性は、数年前、たまたま点けたテレビで、吉田仏師のことを知ったのだという。

「仏像に興味がないから、忘れるはずだったんですよ。だけど、なぜか頭に残っていたんだなぁ」

不思議なものだ、と男性は続けた。

仏像に関心がなかった人が、発願に至る。それは一瞬のようでいて、お話を聞いているとやはり人生のどこかで種のようなものがあったりする。

別れ際、男性が言った。 「完成したら、お祝い式しようか。高知の人は、ほんまにそんなんが好きや」 そう言って笑うと、幼い頃に経験した、土佐の「おきゃく」の様子を語り始めた。

「ほんまにしましょう。鮎を焼いたりして」
「それはいいですね!」

車に乗り込む男性を、吉田仏師と二人並んで見送る。車が見えなくなるまで手を振った。

アイキャッチ画像は、吉田仏師が彫刻刀を研いでいる手元