十三夜に突然現れた白い子猫。
家に連れ帰り灯りの下で見れば、目脂でまぶたが開かない。声も掠れ、どうも匂いも分からないらしい。水すら自分で飲めず、衰弱していた。
ペットボトルの湯たんぽを作り、土間に寝床を整えた。
秋深まる山道でどれくらいの時を過ごしたのだろう。
痩せた体には秋風が堪えただろう。子猫は温もりが心地よいらしく、やがて眠りについた。目も鼻も分泌物でいっぱいで、「ぶー、ぶー」と濁った寝息をたてた。
最初から、不思議な存在感があった。まるで前からこの家の一員だったかのような雰囲気を漂わせていた。
翌朝、ガラッと土間の戸を開けて目に入った光景にハッとした。
ベンチにかけた夫の肩に白いものがちょこんとのっている。「この生き物、好き」とでも言わんばかりに、喉をならし夫の首に何度も小さな頭を擦り付けていた。
朝日に白い毛を輝かせ、自分より何倍も大きな人間に無防備に好意をあらわにする命。なんと尊いのだろう、大切にしなければ、と思った。
法要を終え、急ぎ動物病院へ。通院の道すがら採取した黒色便も検査してもらった。獣医の「寄生虫」「重度の猫風邪」という言葉に、初めて命の危うさを実感する。注射を打ち、薬を処方され、翌日から五日間の通院が始まった。
「この子、どうされますか?」
受付で問われ、夫婦で顔を見合わせた。一瞬の沈黙の後、二人同時にうなづいた。
「家族として迎えます。名前はまた考えます。」
帰り道、車内は名前談義で賑わった。
「フワフワだからフワちゃん!」
「白いからシロちゃん、かな」
「見つけた場所にちなんでコッコちゃんはどう?」
娘は怖いと言いながら、命名に熱心だった。皆であれこれ案を出し合ったが、決めかねた。
ペットの買い物は夫婦とも初めての経験だった。ホームセンターのペットコーナーで、「これでいいのか」「これも必要だろうか」と、迷いながら一つ一つカゴに入れていく。
猫用トイレや猫砂、ペット用品の数々。ショッピングカートは瞬く間にぎゅうぎゅうづめになった。
帰宅後も忙しくすぎた。
獣医から勧められた療養食とミルクを、シリンジで少しずつ口に含ませた。子猫が上手に飲み込む様子を、皆で応援しながら見守った。
ノミとの闘いは、語るほどでもない。それより名前だ。
私は、ハッとした。「皓々と輝く十三夜からやってきたから、皓月。どう?」
「いいね!」
全員一致で、子猫は皓月、コウちゃんと呼ばれることになった。
皓月は、お腹を膨らませ、満月のように丸まってブーブーと寝息をたてていた。