現代造佛所私記 No.2「上巳の節句」

上巳の節句(旧暦3月3日)は西暦で4月だが、子どもの行事として保育所や幼稚園で3月3日に行われるので、我が家ではこの1ヶ月間を「上巳の節句期間」にしている。

3月3日には、環境を汚さない紙で作った人型に各々ケガレを写しとり、春めいてきた家の前の小川に流しにいく。

これは私が独身時代から続けている習慣だ。結婚し、子どもが生まれてからは家族揃って心身清める日としている。

そして、子どもの成長を喜び、春を言祝ぎ、ちらし寿司や果物を並べ、少し華やいだ食卓を囲むのだ。

子どもが5歳くらいになったときから、ペットの猫たちや自家用車の「型」も作り、清めるようになった。子どもにとって、ペットはもちろんのこと、車も家族の一員なのだと微笑ましく思う。

居間には、吉田仏師作の男女の神像が飾られている。子どもが生まれた年に開催した個展向けに製作した神像だった。お世話になっているギャラリーオーナーの「お雛様みたいだね」という一言で、子どもの守り神として残しておくことにしたのだ。

吉田仏師は、「ちゃんとした雛人形を買ってやりたい」と常々父親としての本音を吐露するが、子どもは自分だけの神様だと認識しており、「Yちゃんの神様!」といって誇らしげに手を合わせている。

上巳の節句の時期は、お菓子や山菜を備え、菜の花や梅の花、桃の花などをいけて、お雛様の雰囲気が増す。

いつか、華やかな雛人形を誂えることもあるかもしれない。

だが、私は思う。家族皆でケガレを紙人形にうつし、男女神像をお祀りしてささやかに祝う、そんな上巳の節句期間が楽しい記憶として子どもの心に刻まれているのではないかと。