現代造佛所私記No.143「教壇から」

2023年10月から2025年3月まで、高知新聞の「閑人調」にて、毎回520字のエッセイを綴らせていただいていた。

その連載を読んでくださっていた生涯大学の学生さんが、私を講師として推薦してくださり、今年1月に初めての講義を。続けて今月、そして10月にもご依頼をいただくことになった。

学生さんといっても、皆さま60代から90代の人生の大先輩方。話す側であることに、最初は恐縮と不安が入り混じっていた。90分ものあいだ、果たして何をお伝えできるのだろうかと。

そんな中、クラス代表の方が言ってくださった。

「仏像でも、雅楽でも、お茶でも、子育てでも。吉田先生が話したいことなら、なんでも」

その言葉に背中を押され、私が工房で出会った物語を、体験談として語ってみようと思えた。

仏教徒でない方もいらっしゃるかもしれない。でも、仏像を軸にした「人の物語」なら、共に感じられるのではないか。私自身が心を揺さぶられた出来事を、ただまっすぐに分かち合うなら。

そこに、仏像ができるまでの道のりを重ねれば、新しい世界への扉を開くような知的な刺激もあるかもしれない。

そう考えたとき、「四国で出会った仏像と人の物語」という講義タイトルがすっと心に降りてきた。

当日は、学生の皆さまの表情を見ながら語るうち、あっという間に90分が過ぎていった。
目を輝かせ、うなづき、笑い、時にハンカチで目元をそっと拭われる方も。
教壇から見えるその一人ひとりの姿が、とてもあたたかかった。

私が感動したことを、こんなにも真摯に受けとめてくださることに、胸がいっぱいになった。

そして今朝、7月に担当したクラス代表の方からお手紙が届いた。

丁寧な感謝の言葉とともに、学生の皆さまの感想も添えられていた。

「仏像に昔からこんなに心や願いを込めているとは知りませんでした。素晴らしい日本の技術をずっと継承していただきたいと思います」

「友達との話題が増えました」

「開眼、法要の大切さを教えていただきました。ご先祖様のおまつりを大切にさせていただきます」

「仏像の製作過程など知らないことが多くありました。とても良かったです。」

「仏像に対する気持ち、暖かい心が伝わってきました。

このところ、少し心が沈むことが続いていた。でも、思いがけず届いた言葉の数々に慰められた。

講義の中で「私にとって仏像は、方向を指し示してくれる存在です」とお伝えした。そのことを、また今日、手紙を通じて思い出させていただいた。

「先生」と呼ばれることには、いまだ慣れないけれど、役割を引き受けることで生まれる力が、たしかにあるのだと感じる。
ありがたく、丁寧にその役目を果たしていこうと、改めて心が定まった。

あのとき教室で交わされた無邪気な笑顔を思い出しながら、私は手紙をそっと折りたたんだ。