私たちには8歳になる娘がいる。
赤子の頃から父親の彫刻室で過ごし、ヒノキの香りに親しみ、多くの仏像に囲まれ育ってきた。出張先にもよく連れていったので、お寺にも多く訪れている。
「ぶつぞうさん!」
彼女は、仏像全体のことを親しみを込めてそう呼ぶ。
2歳の頃のことだ。
自宅の救世観音立像の前を通り過ぎようとしたとき、何か思い出したように踵を返した。「はて、どうするのかな?」と見ていると、救世観音に正対し、合掌して頭を下げた。
用が済んだという体で、おもちゃの部屋へよちよち歩きの名残ある足取りで入っていった。
私はあの光景を忘れることができない。
彼女は、あれから幾度となく仏像をモチーフにした絵を描いている。
地蔵菩薩、釈迦如来、阿弥陀如来、不動明王……。
中でも一番好きなのは、薬師如来だそうだ。その理由は?「薬壺の形がかわいいから!」
いつからか、本を見ながらノートに仏像の特徴や時代を代表する作例をまとめるようになった。自分なりに仏像研究をしているのだ。
その賜物なのだろう、御仏にそなわる32種類の身体的特徴が、彼女の仏像には描かれている。


最近は、紙粘土で如来像を作るようになった。
「ラホツはね、一つ一つ小さなおだんごを作ってつけるといい感じ!」
今後は、仏手や宝剣、宝珠、薬壺を作る予定だという。
お像に真っ直ぐ合掌し、頭を垂れた心のままに、小さな仏師は今日も造仏に勤しんでいる。