現代造佛所私記No.106「文化財とPR」

文化財保存修復学会、富山大会。
第47回目を迎える本大会で、私はポスター発表に臨んだ。

テーマは、「高知県まきでら長谷寺蔵 木造仁王像の保存修理と情報発信──修理現場での企画開発とPR活動の意義と課題」。

文化財における広報・PRという、これまで正面から論じられることの少なかった領域に、仏像工房の現場から光を当ててみたい、その思いで挑んだ発表だった。

私が神社仏閣専門のPRを始めた当初、そして今でも、「なぜ仏像工房がPRを?」という反応を受けることが少なくない。

これまでも寄稿や講演を通じて背景や想いを語る機会はあったが、今回はあえて学術の舞台に立ち、この山あいの工房で取り組んできた実践を「公的なもの」として共有してみたかった。

会場は富山国際会議場。ポスターが壁一面に並び、熱心な研究者や技術者たちがすでに活発に情報交換を行っていた。

そんな中、私たちは家族で参加した。ありがたいことに、今年の大会には託児室が設けられており、それが私の背中を押してくれたのだ。

9歳の娘は、宿題と本、塗り絵、宝物(石やぬいぐるみ)を詰め込んだリュックを背負い、大切なポスターを抱えて、誇らしげに歩く。

指定された展示パネルの隣は、偶然にも夫が長年お世話になった株式会社明古堂のブースだった。席替えで仲の良い友人と隣になれた時のような気持ちと共に、懐かしさで心がほぐれる。

とはいえ、緊張がなかったわけではない。

エントリー後の審査では、「文化財の保存修復の研究として、PRはどのような関わりがあるのか」との確認も入った。

PRという言葉は、しばしば広告・宣伝と混同され、商業的な印象を伴って受け取られることもある。

実際、アメリカで発祥したこの概念は日本に導入されてからまだ百年足らずであり、一般企業活動においても広告・宣伝との違いが正しく認識されているとは言い難い現状がある。それでも私は、不安と同時に、手応えのようなものを感じていた。

文化財の保護・活用には、保存修理という専門的な技術に加えて、分野横断的な視点が不可欠であり、社会との接点、つまり一般への普及啓発や教育の機会も、今後ますます重要になると感じていたからだ。

そのためには、Public Relations(相互理解と信頼に基づいた関係構築)が必要であり、文化財分野でもその役割を果たせるはずだと、私は信じている。

そして迎えた発表当日。予想を超える温かな反応をいただいた。

「これから絶対に必要なこと」
「文化財分野にも新しい切り口が必要だ」
「必要だとは思っているが、どう手をつけてよいか分からない」

そんな声に、私は何度もうなづき、随分励まされもした。

正解のない問いに向き合う心細さを抱えながら、文化財のPRとは何か?その位置づけは?
何度も要旨を書き直し、構成を練り、図表を整えてきた。

そうした準備のすべてが、今この場で対話を生み出す土壌となっていることを、深く実感した。

この日、私は一つの小石を、水面に投じたにすぎない。
けれど、その波紋が、誰かの実践や問いに届き、思わぬ解決策を産むかもしれない。

その可能性を信じて、私はまた次の発信へ向けて、歩き出そうと思う。

この挑戦を支えてくださった、まきでら長谷寺の皆様、吸江寺ご住職ならびに檀信徒の皆様、
そして「PRに振り切ってはどうか」と背中を押し、丁寧なアドバイスをくださった高知大学の松島朝秀先生、応援してくださっていたすべての皆様に、心より感謝申し上げたい。

※研究発表要旨・ポスターのPDFデータをご希望の方▶︎よしだ造佛所へその旨ご連絡ください。