1000日毎日執筆すると誓って 100日目を迎えた。スタートした頃は「100日目はさぞ感慨深いだろう」と漠然と思っていたが、いざその日が来てみるとはまったく違った。
その当日である今日は、学会ポスターのデータ入稿締切日だった。
急な別件対応、グラフィックソフトのフリーズ、画像不備、印刷が間に合わないことが判明するなど、まるで試されているかのようにトラブルが続いた。
一分一秒を争う締切直前、最終的に印刷会社を変更して無事に入稿を終えた。家族は皆寝静まり、感慨に浸る余裕もなかった。
けれど、もし今日が静かな一日だったとしても、たぶん特別な「達成感」は無かったのではないかと思う。それほどに「書くこと」が私の日常に根を張っていた。
言葉を削ったり、整えたりする中で気づいたことがある。書かなかったことの行方だ。
書いたことは極々一部のことに過ぎない。その一方で膨大な「書かなかったこと」がある。気づいたのは、そんな多くの出来事が、「コラムの背景」として広く広く心の中で景色を作っていることだった。
「書かなかったこと」は棄てられたのではなく、豊かな背景として毎日を繋ぎ心象風景を豊かにしている。言葉にせず、ほとんど思い出さない、「書かなかったこと」。
その健全な忘却は、書いたことを包むふかふかの土壌となって、人生を育んでいる。それに気づけたのは、100日続けたおかげだろう。
さて、先週のコラムを振り返ってみる。
- 6/2 No.93「歩き続ける」 工房9年目の扉が開いた翌日。歩みを確かめまた一歩。
- 6/3 No.94「雅楽研修」 愛媛県神社庁の雅楽研修に参加したこと。
- 6/4 No.95「梅雨」 氷砂糖と梅が揺れる音と季節の気配。静かな内的充実のこと。
- 6/5 No.96「甘い香りと蛍の光」 川の音、花の香り、蛍の光。五感で感じる静寂。
- 6/6 No.97「”あはひ”と不動明王」 音と舞のパフォーマンスグループ「あはひ」と不動明王との不思議なご縁。
- 6/7 No.98「伝えること」 仏像というかたちの偉大さに気づいた話。
- 6/8 No.99「お食い初め前夜」 1000日コラムを子育てと見立てて。
昨日、四国は梅雨入りした。
九州で線状降水帯が発生したというニュースに、にわかに緊張する。どうか、大きな被害なく、新たな季節を全ての人が無事に通り過ぎていけるようにと祈った。
書いたこと、書かなかったこと、その両方を抱きしめて、明日からまた書き続けようと思う。
一番読まれていたのは、現代造佛所私記No.98「伝えること」