現代造佛所私記 No.10「棟梁の仏像」

落石か落葉か見極めろ!
鳥獣だブレーキを踏め!

何のクエストか?と思うような我が家への一本道を、友人が登ってきてくれた。

1、2ヶ月に1度、龍笛の稽古会のためにわざわざ来てくれるのだ。都会育ちの彼女が険路を訪ねてくれるのだから、もうそれだけで頭が下がる。

「亡き祖父の誕生日に、仏壇に添えようと思って作った写真集があるんです。」

稽古の後、彼女がおもむろに取り出したのは、クラフト地に赤いリボンがキュッと結ばれたアルバムブックだった。

真新しいリボンを解くと、目が釘付けになった。

大工の棟梁だった彼女の祖父は、晩年にかけて40年もの間、何体もの仏像を彫り続けたという。

地元の市民展での受賞歴があり、欲しいという人もあったと聞いていた。

1枚目は弘法大師修行像。
彼女が撮影した写真からはおじいさまへの深い愛情が、お像からおじいさまの幾重もの思いが滲み出るようで、じわっと目が潤む。

戦争で友人を多く亡くしたから、そのことも動機になっていたと思う、そんなことを彼女が言った。そうだ、今日は東京大空襲があった日だと、手のひらに汗が滲んだ。

「顔がね、じいちゃんそっくりなんです。」

笑う彼女の声を聞きながら、あぁ、きっと真っ直ぐで優しい、そして楽しい人だったんだろうなと思ったりした。

プロの仏師の作品と趣は異なるが、丁寧に仕上げられた如来、菩薩、天部の御仏たちから、なんとも言えない生命力が漲っていた。

彫刻の途中、辛い思いも蘇ったりされたのではないかと推察したが、それにしても彫る喜びではち切れそうなこのお姿よ!

技の巧拙とは関係のない、心に直截にくる力の正体はなんだろうね。

「おじいちゃんの仏像」を通して、友と話題が尽きない午後だった。