ひと針と一刀

「うちに20歳の猫がいるんだけど、もし亡くなったらその子をモデルにお像を作ってね」

昨年12月の個展で「霊獣シリーズ」をご覧になったH様が、笑いながらおっしゃっていた2ヶ月後…。

高齢ながら元気だった猫の「ももちゃん」の訃報があった。

20年もの歳月を共に過ごしたご家族である。亡くされた悲しみは如何ばかりかと胸をいためていた。

まもなく、生前のお写真・ご家族の描かれた似顔絵・納入品として形見が届いた。ももちゃんがどれだけご家族に愛されていたか、お写真や似顔絵を見れば一目瞭然。

悼みとともに、ご家族の温かい思いも感じながらの制作となった。

 

 

そして、完成したお像を宅配便で発送した時のこと。お像到着前に、H様がある写真を送ってくださった。

それは、ちりめんの座布団だった。もも像を制作している間、H様もお像を迎える準備をされていたのだ。

造仏中、施主様が滝行や遍路修行など何らかの行をされることがある。

今回は仏像ではなかったが、仏像に使う材料を用い、仏像を彫るときと同じ気持ちで制作したので、このように施主様と気持ちを合わせて一つのお像をお造りできたことを非常に嬉しく思ったことだった。

大切なご家族のご供養になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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