豊かな記憶をはぐくむ場 〜 竹林寺本坊落慶によせて

2024年に開創1300年を迎えられる竹林寺 (高知市五台山)

今年2019年はその記念整備事業の一つとして、本坊が建て替えられました。

「寺は祈り、学び、楽しみの場。人々に開かれ、人々に寄り添う寺でありたい」

海老塚住職のその思い、寺院関係の皆様、檀家の皆様、工事に関わられた皆様…関わる全ての人の祈りや情熱を感じるような空間でした。

290,00個の瑪瑙 (メノウ) の珠が連なる。水晶がサンキャッチャーのよう

3歳の娘が、おやつに目もくれず親の隙をついては本坊地下の「皓月殿 (こうげつでん) 」へと走りこみ、女将が慌てて追いかけるという場面も。

皓月殿というのは位牌堂で、徳川家康ゆかりの阿弥陀如来様が祀られる場。
どことなく不思議な温かさを感じる礼拝堂です。

小さな子供が行きたがるというのは、そういう雰囲気を感じ取っての事かもしれません。

高知新聞が動画でも紹介しています。阿弥陀様もチラッとご覧いただけますよ^^


(高知新聞電子版より)

今後、法要を営む場にとどまらず、瞑想をはじめとするバリエーション豊かな仏教体験・実践のための道場としても活用されるそうです。

次回は、そのような機会にお伺いできればと楽しみにしています。

こちらの新本坊についてもう少し。

駆け出す娘を追いかけ、右往左往しているうちに気づいたこと。

無理がなく、最初からそこにあるのが必然のような、3歳でも迷わない (もちろん大人も) 、分かりやすく動きやすい間取りなのだということ。

間取りが自然であるがゆえ、私のような素人では想像もつきませんでしたが、設計を担当された堀部安嗣さんは苦慮なさっていたようです。

堀部氏はこう語っています。

「一筋縄ではいかない複雑で難解な方程式を解くような設計でした。

機能的なことを充足させることさえも難しかったのですが、
しかしその中で決して見失ってはならない
寺の建築に求められる”情感”と、
豊かな記憶や思い出を宿すことのできる”人の確かな居場所”の創出を
最後まで諦めずに粘り強く考え続けられたのはどうしてでしょう。」

(五台山 竹林寺 開創千三百年記念整備事業「本坊落慶」より)

粘り強く導き出された設計の背景に何があったのか。

竹林寺関係者、工事関係者の献身的な仕事ぶり、参拝者はじめ境内を行き交う人々のお寺への信頼と安心、そういったものが自身の潜在的な力を大きく引き出してくれたのではないか、堀部氏は先の文章に続けています。

振り返ってみると、「豊かな記憶や思い出を宿す」場所をというお言葉通りでした。

あの時出会った多くの皆様の笑顔と共に、御仏の手に抱かれているような温かい安心感が湧き上がってきます。

阿姫様が、父・徳川家康公の菩提を弔う為に阿弥陀如来像を奉納された様子を再現する儀式。

これまでの竹林寺の歴史をぎゅっと詰め込み、これからの未来を育み紡いでいく本坊。末長く人々の豊かな記憶が積み重ねられていきますように。

さて今回、弊所仏師も工事関係者として、末席に名を連ねております。

「蓮華の蕾から花弁を一枚、そっと開かれている…まさに私たちの仏性を開いてくださっているようなお姿で」

誠に光栄なことに、そのようなご依頼を受け、本坊の受付兼納経所に菩薩像懸仏を制作いたしました。

仏様は桜の木で造顕、花器は西本卓也さん制作の真鍮製。

【 古い木材・古典的な仏様 × 新しくスタイリッシュな真鍮 】
まさに「これまでとこれからを繋ぐ」組み合わせです。

仏像 (直径 24cm, 桜材) 花入 (高さ 29cm, 真鍮) 木彫:吉田安成 / 花入:西本卓也

お立ち寄りの際は、お像もぜひご覧ください。

「これからです。これからです…」
ご住職が繰り返すこの言葉をかみしめつつ

合掌