現代造佛所私記 No.223「観音様のような人」

快晴。金木犀の香りが色濃く、日差しに力を感じる朝だった。今日は生涯大学での三度目の講演。午前中、資料と原稿に最後の目を通し、車で小一時間ほどの会場へ向かう。正午近く、秋の陽は容赦なく降りそそいでいた。

文化施設の最上階にある講義室は、清潔な明るさに満ちている。平均年齢七十八歳、八十名ほどの受講者の方々が待っていてくださった。いきいきとした好奇心に満ちた瞳。熱心に耳を傾けてくださる眼差し。学ぶのに年齢など関係ないのだと、生涯大学にお邪魔するたび嬉しくなる。

講演後も、次々に声をかけてくださり、温かな言葉が胸にしみた。

そんな今日の講義では、思いがけず八年ぶりの再会が待っていた。

八年前というと、高知にUターンしてきた年だ。地域おこし協力隊の方の企画で、吉田仏師は森の中でワークショップをさせていただいた。二時間で円空仏を仕上げるというものだった。ご主人とお孫さんの三人で参加してくださったのがOさんだった。そのOさんが、最後列に座っていらしたのだった。

おしゃれで明るく、周囲をやわらかく照らす方。小学生だったお孫さんがもう大学生だという。

「きっと覚えていないと思っていました」とOさんは笑った。忘れるはずがない。折に触れていただいたお手紙。工房の運営に行き詰まり、たたむことさえ考えていた日々に届いた、優しい応援の言葉。あの筆跡は心の深いところに刻まれている。

八年ぶりの再会。よくぞ、また会えた。今も胸がいっぱいだ。

生涯大学に通われているご友人が、今日の講義のことを知らせてくださり、特別に聴講生としてご参加くださったのだそうだ。

帰宅して数時間後、Oさんからメッセージが届いた。「本当にご縁が繋がっていることに感謝を致しました。友人が教えてくれて楽しみに伺いました。仏像のできるまで、あんなにわかりやすく説明してくださり感激でした」。画面越しに伝わる温かさに、また胸が熱くなる。

そのような存在は、Oさんはじめ、何人もいらっしゃることに思いを馳せる。見えないところで支え、励まし続けてくださる方々。不意に便りをくださったり、ひょっこりお越しくださったり、そっと手を差し伸べてくださる。まるで観音さまの化身のように。

会場を出た時、金木犀の香りがいっそう濃くなっていた。プリントをかざして最上階を振り返った、あの秋の光。また一つ、ご縁の有難さを噛みしめる。

講演のタイトルは「四国で出合った仏像と人の物語」。Oさんとの再会もまた、その物語の一つだと思った。